すべての基本となる抗リウマチ薬(メトトレキサート)

treatment

メトトレキサート(MTX)とは?:リウマチ治療における中心的な役割

メトトレキサート(MTX)は、関節リウマチ(RA)の薬物治療において、最も基本的かつ重要な薬剤であり、「アンカードラッグ(錨の薬)」とも呼ばれ、できる限り最初の治療に使用する要となる治療薬です。日本国内だけでなく、国際的な診療ガイドラインにおいても、RAと診断された場合に最初に選択すべき薬剤として強く推奨されています。

MTXがこのように中心的な薬剤として扱われる主な理由は、関節の炎症(痛みや腫れ)を効果的に抑制する作用と、病気の進行に伴う関節破壊の進行を遅らせる効果が、多くの臨床研究で実証されているためです。さらに、生物学的製剤やJAK阻害薬と比較して、費用対効果にも優れているという側面も持っています。これらの特性から、MTXはRA治療の出発点であり、多くの患者さんにとって治療の根幹を成す薬剤と言えます。 MTXが使用できない患者さんには、それに代わる優れた治療薬があります。これらの薬はMTXだけでは効果不十分な場合に併用することもできます。

作用機序:どのように炎症や関節破壊を抑えるのか

MTXは、体内で葉酸というビタミンの働きを部分的に阻害する作用(葉酸代謝拮抗作用)を持っています。葉酸は細胞が増殖する際に必要な物質であり、MTXはこの働きを抑えることで、関節リウマチの病態に深く関わるリンパ球などの免疫細胞が過剰に増殖したり、活動したりするのを抑制します。

その結果、これらの免疫細胞から産生される炎症を引き起こす物質(サイトカインなど)の量が減少し、関節の炎症や痛みが和らぎます。また、関節破壊に関与する細胞の働きも抑えることで、関節破壊の進行を遅らせる効果も発揮すると考えられています。このように、MTXは免疫系の異常な活性化を多角的に抑えることで、患者さんの免疫システムを正常に近づけてRAの症状改善と病気の進行抑制に貢献します。

投与方法:経口薬と皮下注射薬の違いと選択

MTXには、従来から使用されている経口薬(飲み薬)に加えて、2022年に日本でも保険適用となった皮下注射薬という新しい選択肢が登場しました。

  • 経口薬: 通常、週に1回、決まった曜日に服用します。1回の服用量を1日の中で1~2回に分けて服用することもあります。投与量は、一般的に1週間に4mg~6mg程度から開始し、患者さんの効果や副作用の発現状況を見ながら、必要に応じて最大16mgまで徐々に増量していきます。
  • 皮下注射薬: 週に1回、皮下に注射します。医療機関で注射を受けるだけでなく、適切な指導を受ければ患者さん自身やご家族による自己注射も可能です。皮下注射薬は、経口薬と比較していくつかの長所が報告されています。具体的には、①消化管からの吸収が安定しており、経口薬よりも優れた有効性が期待できること、②安全性は経口薬と同等以上であること、③特に吐き気や食欲不振といった消化器系の副作用が少ない傾向があること、などが挙げられます。

関節リウマチ診療ガイドライン2024の治療アルゴリズムでは、MTXによる治療を開始する際に、経口薬と皮下注射薬のどちらを選択してもよいとされています。しかし、現状ではコスト面を考慮し、MTXを初めて使用する患者さんに対しては、まず経口薬の使用が優先されることが一般的です。そして、経口薬で効果が不十分な場合や、副作用(特に消化器症状)のために十分な量まで増量できない場合に、皮下注射薬への切り替えが検討されるという流れが示されています。この皮下注射製剤の導入は、MTX治療を最適化するための重要な選択肢と言えます。臨床的な利点(より高い効果、消化器系副作用の軽減)が期待できる一方で、その選択は経済的な側面も考慮して行われるという、医療資源の適正配分と個別化医療のバランスを反映したアプローチとなっています。

期待される効果と主な副作用・注意点

  • 期待される効果:
    MTXの適切な使用により、多くの患者さんで関節の腫れや痛みの軽減、朝のこわばりの改善、運動機能の向上、寛解が期待できます。さらに重要な点として、関節破壊の進行を遅らせる効果も科学的に確認されています。また、MTXは単独で使用されるだけでなく、後述する生物学的製剤やJAK阻害薬と併用されることも多く、これらの薬剤の効果を高める作用も報告されています。このため、MTXは単に初期治療薬としてだけでなく、多くのRA患者さんの治療戦略において長期的に中心的な役割を担い続ける薬剤です。
  • 主な副作用:
    MTXは効果的な薬剤である一方、いくつかの副作用が起こる可能性があります。主なものとしては以下のようなものがあります。
    • 消化器症状: 吐き気、嘔吐、食欲不振、口内炎、下痢、腹痛など。これらは比較的よく見られる副作用です。
    • 肝機能障害: 血液検査でAST (GOT)、ALT (GPT) といった肝臓の酵素の値が上昇することがあります。多くは無症状ですが、定期的な検査が必要です。
    • 骨髄抑制: 血液細胞(白血球、赤血球、血小板)を作り出す骨髄の働きが抑えられ、これらの血球が減少することがあります。白血球が減少すると感染症にかかりやすくなり、赤血球が減少すると貧血症状(だるさ、息切れなど)が、血小板が減少すると出血しやすくなることがあります。これは重篤な副作用の一つです。
    • 間質性肺炎: 肺で酸素の取り込みを行う間質という部分に炎症が起こる、重篤な副作用です。空咳(痰の絡まない咳)、息切れ、発熱などが初期症状として現れることがあります。早期発見と迅速な対応が極めて重要です。
    • その他: 脱毛、全身倦怠感、発疹などのかゆみを伴う皮膚症状、頭痛、めまいなどが起こることもあります。

これらの副作用、特に骨髄抑制や間質性肺炎のような重篤なものについて、患者さん自身がその可能性と初期症状を理解しておくことは大切です。これは、万が一副作用が発現した際に早期に医療機関に相談し、適切な対応を受けるために不可欠であり、また、定期的な検査の必要性についての理解を深め、治療への積極的な参加(アドヒアランス)を促すことにも繋がります。

  • 注意点:
    • 副作用の予防・軽減を目的として、葉酸製剤(フォリアミンなど)がMTXの服用日以外に併用されることが一般的です。
    • 安全に治療を続けるためには、定期的な血液検査(血球数、肝機能、腎機能など)や胸部X線・胸部CT検査、問診などによる副作用のチェックが欠かせません。
    • 高齢の患者さんや腎臓の機能が低下している患者さんでは、MTXの排泄が遅れて体内に蓄積しやすくなり、副作用のリスクが高まるため、より慎重な投与量の設定やモニタリングが必要です。
    • MTXは胎児に影響を及ぼす可能性があるため、妊娠中や授乳中の女性、近い将来妊娠を希望している男女(パートナーを含む)は原則として使用できません。治療中および治療終了後一定期間は、確実な避妊が必要です。
    • 発熱、咳、のどの痛み、だるさなど、感染症を疑う症状が現れた場合や、その他気になる症状が出た場合には、自己判断せずに速やかに主治医に連絡し、指示を仰ぐ必要があります。
電話予約
LINE予約LINE予約
WEB予約WEB予約