生物学的製剤について
treatment生物学的製剤について

生物学的製剤は遺伝子工学(バイオテクノロジー)で作られた注射タイプのリウマチ治療薬で、バイオ製剤とも言われます。リウマチ治療を始めるときの最初の薬として使うことは原則できません。まず飲み薬で治療を始めて三ヶ月経ってもリウマチが良くなる気配がない、六か月たっても治まらないで、寛解にならなかった患者さんのための治療薬です。
つまり、飲み薬の力よりリウマチの勢いが強すぎて、飲み薬では抑えられなかった時に治療の二段階目として使われる治療薬です。ですから一般的に飲み薬と比較して生物学的製剤の方が、治療の効果は強く、治療の効果を実感するのも早くなります。また副作用も飲み薬に比べると少ないため、とても良い治療方法なのですが製造コストが高いためお薬そのものの値段が高いことが難点です。そうでなければすべての患者さんに使うことが良いと思います。
医療保険は適応ですが治療費が高くなるので、国の予算を使う医療保険ではなかなかすべての患者さんに初めから使うことができません。(たとえば3割負担の場合、月に2~3万円程度の医療費が必要となります。)ただし治療を開始する時点でリウマチの勢いが極めて高い、すぐに関節が壊れてしまうことを予測できるリスク因子がある場合は、関節破壊を阻止するために最初の治療薬として生物学的製剤の中から2種類のものが使うことができます。保険適応です。
飲み薬では抑えられない活動性:勢いが強いリウマチでも、生物学的製剤であれば抑え込むことができるということです。
普通のプロスポーツ選手には難しくてできないようなプレーも、スター選手であれば、プレーを華麗に決めて成績が良く、ミスが少ない。だけどそれに見合ってギャラは高いといったところでしょうか。
生物学的製剤は関節炎を引き起こす炎症の信号が通る経路を遮断することで、リウマチの勢いを抑えていく仕組みです。どこを遮断するかで 抗TNFα製剤、 抗IL-6受容体抗体製剤、T細胞選択的共刺激調節剤の3種類に分けられます。バイオシミラー(BS:後発品のようなもの)を含めると現在日本で関節リウマチに使える生物学的製剤は12種類あります。
注射には静脈注射をする点滴タイプと、皮下注射をするタイプの二つがあります。一般的に点滴注射の方が投与の間隔が長めになり、点滴注射そのものも一時間から3時間程度かかります。皮下注射は投与間隔が短くなります、皮下注射そのものは数分で完了します。
最近の注射キットはとても簡単に使えますので自分で皮下注射をする患者さんも多いです。
当院で使用できる生物学的製剤の分類
生物学的製剤(BIO製剤)ってなに?
生物学的製剤は、生物から合成されたたんぱく質を素材にして作られた薬です。関節リウマチの炎症を起こすたんぱく質、「サイトカイン」の働きを阻害すること、あるいは免疫を担当するT細胞を調整することでその効果を発揮します。
2003年日本で初めて承認されて以降、日進月歩で新たな製剤がつくられ、今や関節リウマチ領域においてなくてはならない存在となりました。特に抗リウマチ薬の治療のみでは効果不十分な場合や、活動性が高く一気に炎症を抑えたい場合、関節破壊を完全に止める目的で使用される治療薬です。しかしその一方で治療薬が非常に高価であるデメリットもあります。
当院では値段や投与方法、投与間隔、患者さんの身体状態に合わせて一緒に相談しながら生物学的製剤を使用するかしないか、どれを使用するかを決定していきます。
バイオシミラーってなに?
バイオシミラーとは「特許の切れた先行バイオ医薬品(先に製造された生物学的製剤)と高い類似性を持ち同等の安全性と有効性があると多くの試験によって確かめられた製剤」のことです。バイオ後続品と言われています。先行バイオ医薬品の約7割くらいと少し金額が安くなっているのが特長です。
ただし先行バイオ医薬品とバイオ後続品は全く同じものではありません。タンパク質の基本的な構造は先行バイオ医薬品と同じですが、タンパク質は非常に複雑な構造をしているため全ての構造が同一のものを製造することは困難なためです。
ジェネリック医薬品と似ているようですが、ジェネリック医薬品よりもはるかに多くの試験がバイオシミラーの製造では行われており、高い安全性と有効性が保証されていると言えるでしょう。
生物学的製剤にはどんな種類があるの?

生物学的製剤は、投与方法が注射と点滴に分かれます。
サイトカインの働きのどこを阻害するかによって「TNF-α阻害薬」「IL-6阻害薬」「T細胞調整薬」の3種類に分類され、それぞれの製剤によって投与の方法、間隔が異なります。製剤によって、はじめの何回かは投与間隔が短いものもあります。
現在日本で認可されているTNF-α阻害薬が7種類(うちバイオシミラー2種類)、IL-6阻害薬が2種類、T細胞調整薬が1種類あります。
TNF-α阻害薬
- エンブレル(バイオシミラー:エタネルセプト)
日本で最初に承認された注射による生物学的製剤で25㎎と50㎎の2種類ある。(10㎎の規格もありますが当院では取り扱っていません。)
- シムジア
関節リウマチの診断直後から使える生物学的製剤2種類のうちの1つ。胎盤を通過しないためお子さんをご希望される患者さんにも安全に使用できる。
- シンポニー
1か月に1本または2本、関節リウマチの病気の勢い(疾患活動性)によって量を調整することが可能。投与間隔が4週間とほかの注射製剤より比較的長いため、自己注射が苦手な人や通院頻度の点でも仕事や生活と両立しながら治療ができる。
- ヒュミラ(バイオシミラー:アダリムマブ)
世界で一番使われている生物学的製剤。関節リウマチの診断直後から使える生物学的製剤2種類のうちの1つ。
- レミケード(バイオシミラー:インフリキシマブ)
日本で最初に承認された生物学的製剤。2か月に1回、点滴で投与する。
バイオシミラーはインフリキシマブ。現在日本で認可されている生物学的製剤の点滴薬で唯一のバイオシミラー。
IL-6阻害薬
- アクテムラ
IL-6阻害薬の長男。投与方法は点滴、注射と2通りある。点滴は4週に1度、注射は2週に1度。
- ケブザラ
IL-6阻害薬の次男。現在承認されている生物学的製剤の中では最も新しい製剤。
T細胞調整薬
- オレンシア
唯一のT細胞調整薬。重篤な呼吸器の感染症のリスクが最も低いと言われている製剤。高齢者や肺合併症で治療に難渋している患者さんには朗報。
生物学的製剤の投与方法と通院頻度

通院頻度はどのくらい必要?
選択された治療方法、患者さん自身のお身体の状況によって異なります。飲み薬では2~4週、注射薬では1~4週、点滴薬では4~8週となります。体調が落ち着いていて、医師が可能と判断した患者さんは最長8週間隔で通院されています。
高い注射を自分で管理できるか不安・・・自分でもできるの?
高価な注射薬である生物学的製剤は、ご本人様のライフスタイルや希望に合わせてご自身または家族が在宅で打つか、院内で看護師が打つか選ぶことができます。
ご自身または家族が在宅で打つことを選択されば場合、当院では3~4回くらい院内で看護師と練習させていただきます。もっと練習したいという方は不安が解消されるまで何度も練習することができます。
また一度院内での注射を希望された場合でも途中で在宅に切り替えたり、在宅から院内に切り替えることも可能です。
ご不安やご希望に合わせて看護師が対応をさせていただきますので、ご安心下さい。
生物学的製剤のお金の話
お金はどのくらいかかるの?
治療費には診察代、検査代、患者さんによってはリハビリテーション代、薬剤代がかかります。この中で最も治療の内容によって差が出るのは薬剤代です。
薬剤代は使用する薬剤、ご本人様の保険の負担割合によって大きく異なります。抗リウマチ薬は生物学的製剤、JAK阻害薬と比べると安価です。生物学的製剤、JAK阻害薬は種類によりますが高額で、バイオシミラーでも注射の薬剤代だけで安くても1か月あたり1万円以上かかります。
そのため、使用する前には当院では必ず製剤のお金もお伝えさせていただき、継続可能なものを選択肢の中から一緒に選ばせていただきます。突然、ご本人様の承諾や説明なく高額な治療を始めることは決してありませんので、その点はご安心下さい。