脊椎関節炎・自己炎症性疾患外来
medical自己炎症性疾患とは?

発熱や関節痛、皮膚の発赤やかゆみ、腹痛や胸痛などの“炎症”の症状が周期的に出現する疾患です。
このうち、発熱はもっともよくみられる症状です。
全身の“炎症”を繰り返すという点では、従来の膠原病に似ていますが、膠原病でよくみられる「自己抗体」は陽性になりません。“自然免疫”というシステムが、自分自身を攻撃してしまうことが原因とされていますが、いまだ解明されていない部分も多いです。
自然免疫とは
自然免疫とは、生まれつき持っている体の防御システムで、外部から侵入した病原体(ウイルス・細菌など)をすばやく認識して排除する役割を担っています。自然免疫は、獲得免疫(抗体による免疫)とは異なり、特定の病原体を「記憶」することなく、共通の特徴を持つ病原体を広く認識して攻撃します。
自然免疫の主な働き手は、マクロファージや好中球などの白血球で、これらの細胞は体内に入ってきた異物を認識すると、炎症を引き起こす物質(サイトカイン)を放出します。通常、この炎症反応は感染と戦うために必要なものですが、自己炎症性疾患では、この自然免疫システムが過剰に反応したり、誤って自分自身の組織を攻撃したりすることで、発熱や痛みなどの症状が現れます。
発熱がみられることなどから、最初に微生物による感染症や悪性腫瘍などを疑われ、診断がされていない方も多くいらっしゃる可能性が指摘されています。
しかし、前に述べた”自然免疫”の仕組みや、遺伝子のはたらきの解明が飛躍的に進んだことで、徐々に診断に至る機会が増えてきており、決して稀な疾患ではないと認識されています。
自己炎症性疾患の特徴
自己炎症性疾患は新しい概念の病気で、比較的若い(20~40代)年代の方に多いとされてきましたが、近年は年配の方にも発症する場合があることが分かっています。
自己炎症性疾患でもっとも頻度が高いとされるのは、家族性地中海熱(FMF)という病気であり、典型的には38℃以上の発熱が12〜72時間の周期で繰り返されます。
また関節炎や腹痛、赤みを帯びた皮膚の発疹などもよくみられます。
他に、発熱、貧血、関節の痛み、耳や鼻の腫れ、皮疹などをきたすVEXAS症候群という病気もあり、高齢で発症することが知られています。
そのほかA20ハプロ不全症、クリオピリン関連周期熱症候群(CAPS)、TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)、周期性発熱・アフタ性口内炎・咽頭炎・頸部リンパ節炎(PFAPA)症候群などが代表的な自己炎症性疾患として挙げられます。
また、今までよく知られている成人発症スチル病やベーチェット病なども、広い意味で自己炎症性疾患の範疇に入るといわれています。
自己炎症性疾患の診断は、臨床症状と後述する遺伝子検査を中心に行われます。
このような方はご相談ください
- 37~40℃の発熱(発熱と解熱を繰り返す)
- 関節の痛み
- 腹痛(腸炎)
- 胸痛
- 口内粘膜や歯茎、舌、口唇のアフタ性口内炎
- 皮膚の発赤やかゆみ、痛み、蕁麻疹
- 眼の痛みや充血
- 鼻や耳の腫れ、痛み
- 頸部リンパ節の腫れと痛み
自己炎症性疾患の検査
血液検査
感染症や他の膠原病を否定するために大切な検査です。
自己炎症性疾患では、症状がある時に炎症反応とよばれる値が上昇します。
レントゲン・CTなどの画像検査
内蔵の合併症を確認するために行います。
遺伝子検査
血液検査になりますが、特殊な手続きを要するため、別項目で記載させていただきました。
自己炎症性疾患の中には、特定の遺伝子変異が発症に関わる病気があり、調べることで診断につながることがあります。ただし、遺伝子検査ですべてが判断できるわけではないこと、個人情報の取り扱いに細心の注意をはらうことなどの観点から、検査の必要があるか否かの判断は慎重に行うことになります。
また、この検査は2024年6月時点では、大学病院や限られた施設でのみ可能なため、実際に行う際は適切な病院に紹介させていただきます。
当院でも連携を強化しております。
自己炎症性疾患の治療
自己炎症性疾患の治療については、疾患ごとに大きく異なります。
比較的よくみられる家族性地中海熱には、まずコルヒチンの内服が適応となり、効果が十分に得られない場合は、生物学的製剤が選択されます。他の自己炎症性疾患では、ステロイド剤なども用いられます。
自己炎症性疾患は、膠原病のなかでも原因など未解明な部分が多く、診断に時間がかかる場合もあります。
心身のストレスが炎症を引き起こす場合もありますので、規則正しい生活で疲れをためないようにしてください。
脊椎関節炎とは?
脊椎(頚椎〜胸椎〜腰椎)に痛みと炎症が起こり、さらに四肢の関節炎、アキレス腱などの腱が骨に付く箇所(腱付着部)の痛み、手や足の指のむくみなどがみられる病気です。
実は「脊椎関節炎」はいくつかの疾患をまとめたグループ名であり、具体的には以下の4つが含まれます。
- 強直性脊椎炎
- 乾癬性関節炎
- 反応性関節炎
- 炎症性腸疾患関連関節炎
いずれも関節リウマチと一番大きく異なる点は、腰や背中の痛みがある点です。

特に腰より少し下の仙腸関節(左右臀部と腰の間)という箇所に痛みが出ることが診断のポイントとなります。
また手足の腫れも関節リウマチと少し違い、手・足全体がむくんだようになりますが、はっきりと区別が難しい場合も多々あります。さらに脊椎関節炎も自己炎症性疾患と同様に、自然免疫が自分自身を攻撃してしまうことが原因とされており、「自己抗体」は陽性になりません。
脊椎関節炎は、症状の現れ方に個人差が大きいため、軽い場合は「単なる腰痛」と思って受診まで時間がかかってしまうことがあります。しかし、進行すると脊椎や四肢の関節が変形し、固くなってしまうことがあるため、少しでも気になる症状があれば早めの受診をおすすめします。
また、腰痛や腱付着部の痛みを生じる病気はたくさん存在するため、鑑別診断もしっかりと行うことが重要です。
このような方はご相談ください
- 特にきっかけがないのに続く腰や背中、首の痛み(良いときとつらいときが繰り返されます)
- 手指、足趾の腫れまたはむくみ
- かかとや肘などの痛み
- 皮膚の発赤・かゆみ:特に「乾癬性関節炎」では皮膚の病気である乾癬がみられます。
自分ではわかりにくい箇所にあることも多いです。 - 発熱:脊椎関節炎でも発熱を認める方がいらっしゃいます。
脊椎関節炎の検査
血液検査
関節リウマチや他の膠原病を鑑別します。また、痛みが強い場合は炎症反応が上昇する場合もあります。
レントゲン・関節エコー・MRIなどの画像検査
骨に起こる炎症や変形、腱の炎症などを調べます。
皮膚生検
乾癬の皮疹を正しく行うため、疑われる場合は皮膚科の先生と連携して皮膚生検を行うことがあります。
なお、このように皮膚疾患に関連する関節炎として、脊椎関節炎のグループではないのですが、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)に合併する骨関節炎も知られています。
脊椎関節炎の治療
まず消炎鎮痛剤を用い、効果が不十分であれば、疾患に応じて抗リウマチ薬の内服を行います。
近年、注射剤である生物学的製剤が数種類(TNFα阻害剤、IL-17阻害剤、IL-23阻害剤)使用できるようになり、格段に治療効果が良くなりました。
さらにJAK阻害剤も保険適応となり、少しずつ使われ始めています。
乾癬に合併して起こる乾癬性関節炎の場合、皮膚の治療は皮膚科の先生と協力して行わせていただきます。
治療薬の進歩に伴い、症状がとても良くなる方がたくさんいらっしゃいます。
お悩みの患者さんへ
ご紹介してきた自己炎症性疾患と脊椎関節炎については、原因が共通している部分もあり、併記させていただきました。
診断がつけば適切な治療ができます。気になる症状がある方はどうぞ受診されてください。
インフルエンザやCOVID19感染などではないのに発熱が続くという方は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。